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冗談

 

 

 

†        †        †

 

 

「……どういうつもりだ?」

 

 怒っているというわけではなく、ただ こちらの意図を問うような声。ソファに身を埋めた彼は、自分の顔の横につかれた腕に一瞬目をやると、それから僕を見上げた。

 

「…………キミって クールだよねぇ……」

 

 質問には答えず、押し倒されたにも関わらず大して動揺の無い様に感嘆を返すと、彼は呆れたように息を吐く。

 

「キミの戯れに毎度心を乱す必要は無いからな」

「フフフ 何それ。僕が遊んでるってこと?」

「ああ。大方いつも通りボクの反応を楽しもうとしているんだろう?」

「………………」

 

 ひっそりと、心の中でため息をつく。僕がどんなに本気で想っていても、その想いが彼に届くことは決して無い。何故なら、彼は厳格な天使だから。天使が特定の対象に恋情を抱くことなど許されないことだ。あってはならないのだ。友人に対して、友情ではなく恋情を抱くなど。だから、彼が僕に素っ気ない態度を取るのは照れ隠しとかでも何でもなく、当然のことなのだ。

 

「それで……いつまでこうしていれば良いんだ」

 

 体の下で彼が言う。キミの望む反応でもしなければ満足しないのか。なんて、そう呟くものだから、思わず、僕は尋ねてしまった。

 

「アビス…… キミ、こういう状況になって何か感じることはないのかい?」

「…無いな。……強いて言えば早く退いてほしい、くらいだ」

「……例えば…ドキドキするとか……顔が熱くなるとか……」

 言いながら、試しに顔を近づけてみる。すると、彼は間近に迫った紫の瞳を細め、小さく息を吐いた。

 

「なんの冗談だ、ルクス……。…………するわけ ないだろう」

「――――――――」

 

 ああ……、愚かだな。

 分かっているのに、どうして確認してしまったのだろう。……少しだけ、期待をしていたのかもしれない。自覚がないだけで、唆してみれば、もしかしたら…があるのかもしれないと。

 

「それじゃあキミは……僕がキミを好きだと言ったら、どう思う?」

 

 一瞬、彼の表情が険しくなる。それから、僅かに困惑したような顔を浮かべて、彼は口を開いた。

 

「……ルクス。冗談が過ぎるぞ。言って良い事と悪い事がある」

 

 天使が恋情を口にするものではない。冗談でも。そう言いたいのだろう、彼は。

 

「冗談……ね……」

「ルクス……?」

「そう…………、今のは冗談だよ。キミがあまりにも素っ気ない反応しかしてくれないものだから、少し言い過ぎちゃったよ~」

 

 そう。そうだ……

 これは、この感情は”冗談”だ。

 だから――――――

 

「そうか…… それなら良いんだが……。あまり、滅多なことは言わないようにな」

 

 どこか安心した様子で、彼は僕の肩へと手を当てる。もういいだろう、離れろと言いたいのだろう。

その手を掴んで、手首に軽く口付ける。次いで、掌に。

 

「……っ!? な、何をするんだルクス!?」

 

 慌てた声を上げる彼に、軽く笑いかける。

 

「ああ アビス。これはね…"冗談"だよ」

 

「…………なに?」

 

 この感情は…冗談なんだ。

 

「だから……僕がこれから何をしても、それは全て”戯れ事”だよ」

 

 どうか、どうか、許してほしい。

 もう抑えることの出来ないこの欲望を友人に向けることを。

 

「まっ 待てルクス…! キミの言っていることが分からない……っ」

「分からなくて良いよ。これは僕の戯れに過ぎないのだからね。キミは、こんなものに心を乱す必要は無いんだよ」

 

 これは僕の戯れ。キミに執着している哀れな天使の独りよがりだ。

 

「…………っ」

 

 紫のネクタイを解き、シャツの襟元の釦を外す。露になった首筋に唇を触れる。耳元に聞こえた相手の微かな声、胸に添えた指先から伝わる鼓動の速さに小さく笑む。

 

 アビス。

 アビス。

 僕の愛しい天使。

 

 戯れでもいい。

 本気にされてなくていい。

 

 だけど、どうか、この想いを、否定はしないで

†        †        †

その気がまるで無いアビス君と少し病み気味かもしれないルクス氏。

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