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Confession

 

 

†        †        †

 

 

「……またナンパですか?」

 

 光の学園の校門横、壁に寄りかかりながら帰路につくであろう生徒達を眺めていると、不意に、無機質な声がかけられた。その方向に顔を向ければ、声に劣らぬ無表情の少女が、小首を傾けた瞬間に少しずれたらしい眼鏡を直しながらこちらを見つめていた。

 

「あ、シエルちゃん」

「当学園の生徒に迷惑を及ぼすようであれば、あなたと言えど見過ごすわけにはいかないのですが」

 

す、と眼鏡の奥の瞳が細められたのを見て、慌てて顔の前で手を振る。

 

「今日はまだ誰もナンパしてないよ!」

「まだ。」

「あっいや、今日はそんなつもりで来たんじゃないって! だってオレは、キミに会いに来たんだからさ…シエルちゃん」

「ワタクシに…ですか……」

 

 慌てて訂正しながらも、キメた態度は崩さないように努める。そう、彼女に会う為だけに来たのだ、今日は。

 

「では、ご用件は何でしょうか」

「返事を聞かせてもらいに来たんだよ」

「返事?」

「この前の、告白のさ」

 

 そう言うと、無感情なエメラルドグリーンの瞳が、少し見開かれた。ほんの僅かな変化だけど、これは本気で驚いてる顔だ。

 

「……冗談では、なかったのですね……」

「当たり前だよ! オレは冗談で女の子に告白したりなんかしないって!」

「………………」

「……いや…確かに女の子にはしょっちゅう声かけるけど! シエルちゃんにした告白は本気だよ!」

「……"キミはオレを包み込む空だ。キミに見守ってもらえるなら悪魔といえど天上の神の近くにまで行ける…

ねえ、オレの為に微笑んでくれないかな、シエルちゃん"…………でしたか」

「!!」

 

 一言一句違わずに暗唱されて思わず唖然としてしまった。あれから少なくとも一週間は経っているはずなのに。

 

「よ、よく覚えてるね……」

「記憶力には、自信がありますから。ですが…これは告白だったのですね……。詩の引用或いは戯曲の台詞かと思っていました」

「……あー……うん…………告白…だったんだよね……」

 

 何だか急に気恥ずかしくなってきた。一応これでも真剣に考えたのだ。ナンパとしてではなく、本気で女の子に贈る言葉を。

 

「あ、あの……」

 

 あからさまにガックリしていると、どこか遠慮がちに声がかけられた。珍しくうろうろと視線を動かし、しどろもどろに話す様子から、慌てているようにも見える。

 

「……すみません。ワタクシ、今まで、その…告白、というものをされたことが無くて……。あなたは言った後すぐお帰りになってしまったので、どのような意図でそう仰ったのか分からなくて……。ですから、同じ男性なら分かるかと、生徒会の方に伺ってみたのです」

「え゛。……どっちに」

「……ルクスさんに……」

「…………」

 

 やっぱりそっちか。内心頭を抱えた。いや、もう片方だったら下手すれば出禁になっていそうだからまだマシ…だったかもしれない。

 

「それで、先ほどの言葉の意図を伺ったら、恐らくは冗談、或いは詩か戯曲の台詞だと仰ったので……」

 

 ……彼女の事だから、恐らく奴の前でも暗唱をしたのだと思う。その上で絶対分かってて言ったに違いない。あの如何にも天使然としていながら中身は何を考えているか分からない優男は。こちらから見れば純度100%の悪意に満ちた笑みが容易に浮かぶ気さえする。

 

「本当に、すみません。このような事も、やはり、分からなければ自分で調べるべきでした……」

 

 心の底から申し訳なさそうに項垂れる羽に、物凄い罪悪感に苛まれる。こんな事で、女の子にこんな顔をさせてしまうなんて男失格だ。

 

「いや、シエルちゃんはなんにも悪くない。オレが変に凝ろうとしなければ良かったんだ。ごめんね」

「いえ……」

 

 言葉を続けようとするのを遮るように、不意に手を取る。案の定、驚いた顔をして相手は顔を上げた。

 

「だから、なんだかキマらないけど、もう1回告白させて。……好きだよ、シエルちゃん。誓うよ。神なんかじゃなくて、キミに」

 

 最初から下手に気取ったりせずに、こう言えば良かったんだ。

 伺うように顔を覗き込むと、困惑したよう眉を下げた目と、目が合った。だが髪の隙間から覗く耳は、先まで赤く染まっているようだった。

 

「……ワタクシなどに、誓っても良いのですか。あなたの本心も碌に理解できなかった者なのですよ…?」

「そんなの何の問題でもないよ。それで、返事は…どうかな……? また後日にした方が良い…?」

「い、いえ… あなたがそれで良いのなら……。……その……よろしくおねがい、します……」

「……!」

 

 そう言って、彼女は、本当に仄かに微笑んだ。その顔があまりに綺麗で、思わず、顔を背けて口元に手を当ててしまった。

 

「…ストルナム…さん……? どうかしましたか……?」

 

 なんて答えればいいだろうか。『うっかり浄化されそうになった』なんて言ったらまた誤解されてしまうかもしれない。

 

「ええと……シエルちゃんの笑顔が凄く、可愛かったから…さ、思わずオレなんかが直視していいのかってなっちゃって……」

 

 これなら良いだろうか。笑みで照れを隠しながらそう言うと、今度は相手が顔を背ける番だった。顔を真っ赤にしたまま彼女は、ぽつりと呟いた。

 

「…………そういう事こそ、遠回しに、分かりづらく言ってください……」

 

 

 

 

†        †        †

 

スト氏の告白はもっと長そうだけど

(私の)ボキャブラリーが足りませんでした

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