ぜんぶ教えてくれないか
これ↓
ルクアビで「ぜんぶ教えてくれないか」とかどうでしょう。
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† † †
最近ルクスの様子がおかしい。
時々じっとボクを見つめてきているくせに、こちらが気付いて目を向けると ふいと逸らすし、かと言って何か用があるのかと問えば、そっと笑みを浮かべて「何でも無いよ」と返してくる。それに、向こうがこちらを見ていない隙に様子をうかがってみると、普段見ている笑顔とは違う、どこか困ったような、愁いを帯びたような表情を浮かべていたし。
彼らしくない。
いつも笑みを浮かべている彼の顔を曇らせる原因は何なのか。気になりだすと、いてもたってもいられなくなり、放課後、帰り支度をしていた彼を、ボクは呼び止めていた。
「ルクス、少し聞きたいことがあるんだが」
「……なにかな、アビス」
心ここにあらずだったのか、不意を突かれたように肩をぴくりと跳ねさせて、彼はゆっくりと顔を上げた。
「何か悩みでもあるのか……?」
「……突然だね。……どうしてそう思ったの?」
「そ、れは……、最近キミの様子が普段とは違うように思えて……だな……」
特別確証も無かったから、理由を聞き返され、歯切れ悪く答えることになる。それを見てルクスは、眉尻を下げたまま笑みを浮かべ、言った。
「そっか。……なんだか心配をかけちゃってたみたいだね。でも、大丈夫だよ。何でもないから、ね」
「…………」
「話はそれだけ…かな? それじゃあ、また明日」
早くこの場を立ち去ろうとするように、返事も聞かず、彼はボクの横を通り過ぎようとする。やはりおかしい。今までなら、そんなこと無かったのに。引き留めるように、すれ違いざまに振り向き、その手を掴んだ。
「……!?」
「…………ボクには、言えない事なのか」
「…………」
「キミは、ボクが悩んでいるときに、すぐに気付いて、尋ねてきてくれるじゃないか。正直、それはとても有り難いし、助かる。……だから、キミが何か悩んでいるなら、全部教えてくれないか。出来る事なら、ボクも、キミの助けになりたい」
じっと、目を合わせて言うと、彼は困ったように笑った。寧ろ、どこか泣きそうにも見える表情を浮かべて。
「……参ったなぁ」
「ルクス……?」
「キミがそんなに気に掛けてくれているなんて、思ってなかったよ。……勘違いしちゃうところだった」
「…………?」
どういう意味だ、と問う前に、彼は、掴まれた腕をそっと解く。
「アビス、キミには、言えないよ。…………キミだけには、言えない」
「な、何故……」
「ごめんね」
謝罪の言葉を口にされてしまって、ボクは、これ以上何も言えなかった。
「優しくて、残酷なアビス。キミに打ち明けられない僕でも、まだ、仲良くしてくれるかな」
どうしてそんな事を聞くのか。言えない事があっても、その程度のことで、嫌うわけがないだろう。
「ああ…… 勿論だ。キミは大事な、友人だからな……」
「…………フフフ ありがとう」
どこか安心したように肩の力を抜いてから、それじゃあまたね と、ルクスは教室の扉へと向かう。今度はもう、引き留めることは出来なかった。その背を見送って、その後、静かに息をつく。
ボクにだけは言えない事。何か心当たりが無いかと考えてみても見当がつかなかった。しかし、この事については、ボクはもう触れない方が良いのだろう。だが、もし彼が話す気になったのなら、その時は、ボクは彼のために力を尽くそう。
そっと、冷たい机へと手を置く。
いつまでも、彼の泣きそうな笑顔が、頭を離れなかった。
(愛してるなんて、言えるわけないのに)
† † †
気付けない、残酷な天使。