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ぜんぶ教えてくれないか

これ↓

ルクアビで「ぜんぶ教えてくれないか」とかどうでしょう。

https://shindanmaker.com/531520

 

 

†        †        †

 

 最近ルクスの様子がおかしい。

 時々じっとボクを見つめてきているくせに、こちらが気付いて目を向けると ふいと逸らすし、かと言って何か用があるのかと問えば、そっと笑みを浮かべて「何でも無いよ」と返してくる。それに、向こうがこちらを見ていない隙に様子をうかがってみると、普段見ている笑顔とは違う、どこか困ったような、愁いを帯びたような表情を浮かべていたし。

 彼らしくない。

 いつも笑みを浮かべている彼の顔を曇らせる原因は何なのか。気になりだすと、いてもたってもいられなくなり、放課後、帰り支度をしていた彼を、ボクは呼び止めていた。

 

「ルクス、少し聞きたいことがあるんだが」

「……なにかな、アビス」

 

 心ここにあらずだったのか、不意を突かれたように肩をぴくりと跳ねさせて、彼はゆっくりと顔を上げた。

 

「何か悩みでもあるのか……?」

「……突然だね。……どうしてそう思ったの?」

「そ、れは……、最近キミの様子が普段とは違うように思えて……だな……」

 

 特別確証も無かったから、理由を聞き返され、歯切れ悪く答えることになる。それを見てルクスは、眉尻を下げたまま笑みを浮かべ、言った。

 

「そっか。……なんだか心配をかけちゃってたみたいだね。でも、大丈夫だよ。何でもないから、ね」

「…………」

「話はそれだけ…かな? それじゃあ、また明日」

 

 早くこの場を立ち去ろうとするように、返事も聞かず、彼はボクの横を通り過ぎようとする。やはりおかしい。今までなら、そんなこと無かったのに。引き留めるように、すれ違いざまに振り向き、その手を掴んだ。

 

「……!?」

「…………ボクには、言えない事なのか」

「…………」

「キミは、ボクが悩んでいるときに、すぐに気付いて、尋ねてきてくれるじゃないか。正直、それはとても有り難いし、助かる。……だから、キミが何か悩んでいるなら、全部教えてくれないか。出来る事なら、ボクも、キミの助けになりたい」

 

 じっと、目を合わせて言うと、彼は困ったように笑った。寧ろ、どこか泣きそうにも見える表情を浮かべて。

 

「……参ったなぁ」

「ルクス……?」

「キミがそんなに気に掛けてくれているなんて、思ってなかったよ。……勘違いしちゃうところだった」

「…………?」

 

 どういう意味だ、と問う前に、彼は、掴まれた腕をそっと解く。

 

「アビス、キミには、言えないよ。…………キミだけには、言えない」

「な、何故……」

「ごめんね」

 

 謝罪の言葉を口にされてしまって、ボクは、これ以上何も言えなかった。

 

「優しくて、残酷なアビス。キミに打ち明けられない僕でも、まだ、仲良くしてくれるかな」

 

 どうしてそんな事を聞くのか。言えない事があっても、その程度のことで、嫌うわけがないだろう。

 

「ああ…… 勿論だ。キミは大事な、友人だからな……」

「…………フフフ ありがとう」

 

 どこか安心したように肩の力を抜いてから、それじゃあまたね と、ルクスは教室の扉へと向かう。今度はもう、引き留めることは出来なかった。その背を見送って、その後、静かに息をつく。

 ボクにだけは言えない事。何か心当たりが無いかと考えてみても見当がつかなかった。しかし、この事については、ボクはもう触れない方が良いのだろう。だが、もし彼が話す気になったのなら、その時は、ボクは彼のために力を尽くそう。

 

 そっと、冷たい机へと手を置く。

 

 いつまでも、彼の泣きそうな笑顔が、頭を離れなかった。

 

 

 

 

(愛してるなんて、言えるわけないのに)

†        †        †

 

気付けない、残酷な天使。

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