Do you give me...?
† † †
「何を読んでいるんだい?」
「…………問題集だ」
唐突に降ってきた声に、紙上の文字から目を離すと、至極当然のように隣へと腰掛けた声の主は、ボクの手元を覗き込む。
「来週のテストのためかい? 流石アビス、勉強熱心だね」
「学生たるもの、常に勉学に励むのは当たり前だと思うが」
淡々と返しながら、再び目線を冊子へ戻す。見たところ、何か具体的な目的を持って話しかけてきたわけではなさそうだ。
「そうは言ってもねぇ~」
不意に頬にかかっていた髪がのけられる。と思えば、その露わになった頬に何かが触れた。
「せっかく僕が隣に居るのに、もう少し構ってくれてもいいんじゃないかなぁ~」
「…………………」
しぶしぶ視線を相手に戻す。
「…………ルクス、知っているか。"人間"は何でも無いのに"こんなこと"はしないらしいぞ」
何か嬉しい事があったわけでもなく、仮に何かあったのだとしても、ボクらは恋人でもないのに。
「ああ、そうらしいね~。でも、"天使"の僕らには関係の無い話だよね」
「ボクから言わせてもらえば、キミはもう少し彼らを見習った方が良いな」
「キミの言い方だと、『もう少し節操を持つべきだ』ってこと?」
「そういうことだ」
即答すると、ルクスは少し考える素振りを見せる。それから、何か思いついたように笑顔を向けてきた。
(もっとも彼の場合 常に笑みを浮かべているのだが)
「フフフ じゃあ、キミの方からしてくれないかな?」
「……は?」
何を、と言おうとした言葉より先に返答するように、彼は口元に手をやり、唇に人差し指を添える。
「そうしたら考えてみるよ」
そして たまにはいいでしょ?とでも言いたげに小さく首を傾げた。
「………………」
「うわぁ、あからさまに嫌そうな顔するね~……。アビス、キミはそんなに僕のことが嫌いなの?」
「………………」
不満そうな声には答えないまま。
問題集を閉じて小さく息を吐く。
それから…黄色のネクタイを引き寄せる。
不意を突かれ驚いたような声が微かに聞こえたが、それを遮るように。
ほんの一瞬。
長く錯覚した一瞬。
再び何事もなかったかのように冊子を開き直す。
やけに熱を帯びている気がする耳元を髪で隠すように。
「……ほら、これでいいだろう」
努めて冷静を装って。
珍しくあからさまに困惑した顔を浮かべている彼へと。
「キミの我が儘を聞くのは、これで最後だからな」
「ぇ、あ、あぁ、そうだね……」
小さく一つ咳払いをして彼はいつもの表情を作り直す。
「確かに…『少し節操を持った方が良い』みたい…だね~……」
どう見ても笑顔で誤魔化している様子が少しおかしくて、こちらまで不覚にも僅かに口元が緩む。同じように咳払いで取り繕いながら返す。
「それは何よりだ」
† † †
アビス君も天使だし、キスすること自体は さほど気にしたりはしないのかもなって……
(でも照れるものは照れるかな~って/×)