† † †
さあ、遊戯を始めよう
命を賭けた愉しいゲームを
「へぇ、意外だったなぁ。てっきりスルーされるものかと思ってたよ」
薄ぼんやりとした灯りがともった部屋の中、口笛を鳴らしながら感心したような声を上げたのは青髪の悪魔。その視線の先にいるのは、厳しい目つきでこちらを睨み付ける長い紫髪の天使。彼はこちらを警戒したまま、僅かに周囲を探るように瞳を動かしている。
「フフッ、何を探してるのかな?」
「…………彼女たちは、どこにいる」
天使は射殺さんばかりの視線と低い声を向けるが、悪魔はそれに動じず首を傾げて見せる。
「彼女たち?」
「とぼけるな! 貴様がそう書き置きを寄越したんだろう、『キミの大切の友人達は預かった。居場所を知りたければ一人でこの部屋に来い』と!」
口早に激昂する天使とは対照的に、悪魔は愉快そうに笑顔を浮かべ、ああそうだったね、と零す。それから部屋に置かれた丸テーブルを指した。上には一客のティーカップが置かれている。天使は彼の指の先に目をやり、こちらの言葉の続きを待つように視線を戻した。
「それじゃあさ…… ゲームを、しよう?」
「ゲーム……だと?」
「キミが勝ったら教えてあげるよ。キミの知りたいコト」
「…………………」
どうする?と敢えて尋ねてみる。天使は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが、仲間の事を思うなら拒否権など無い事は分かっているだろう。思った通り、貫くような視線を向けたまま天使は口を開いた。
「…………ルールは」
「キミってせっかちだね。その前に落ち着かない? ほら、そこにお茶も用意してあるんだ」
「不要だ。さっさと始めてくれ」
「……飲んでくれないと始めないよ?」
「……………………」
舌打ちでもしそうな顔で天使はテーブルの方へと身を翻す。隠されもしない明らかな焦燥が伝わってきて、悪魔は内心でくつくつと笑う。自身もゆっくりとテーブルの方まで歩いて行くと、ティーカップを手に取った天使がこちらを見つめていた。優しい声色で促す。
「さあ、召し上がれ」
「………………」
何か言いたげだった天使は、覚悟を決めたように息を吐いて、カップの縁に口を付ける。少し温くなった紅茶が喉を通り過ぎていく。味わうこともしないまま、一息に飲み干す。そしてカップをソーサーに戻し、口元に笑みを浮かべたままの悪魔の方を振り向いた。
「……これで良いだろう。早く――――」
「まあまあ。お味はどうだった?」
「……友人の淹れたものの方が遙かに良い」
「それって、キミの学園の副会長さん?」
「…………ボクはお前と無駄話をする為にここへ来たわけじゃない」
飄々と躱すように、いつまでも話を始めようとしない悪魔に苛立ち、天使は眉を強く顰める。時間を稼ごうとでもしているのか、しかし、何のために。相手の意図が読めない。こんな事をしている間にも彼女たちは。そう思うと居ても立ってもいられず、相手に詰め寄ろうとした。しかし、
「…………!?」
突然、自身の意思に反してがくんと膝が崩れた。同時に、全身の血管が脈打っているかのように、心臓が激しく音を立て始める。じわじわと身体の中心から熱が広がっていく。そしてそれに対して感覚を失っていくかのように冷えていく指先。言い知れない身体の痺れと、徐々に上がっていく呼吸。肺が締め付けられ、思わず咳き込む。微かに霧がかかり始めた視界で見上げれば、相手は悪魔然とした笑みを浮かべていた。
「フフッ、効果は抜群、みたいだね。友達に毒の扱いが上手い女の子が居てさ、即効性の毒を少し分けて貰ったんだ。どう? 最高の隠し味だったでしょ?」
「………………」
「わぁ、随分と具合が悪そうな顔色だね。控えめのものを、って頼んだつもりだったけど、結構強いものだったみたいだ」
「貴、様……」
わざとらしく肩をすくめて笑い、悪魔は懐から小さなビンを取り出す。そしてしゃがみ込み、そのビンを顔を歪めた天使の目の前でちらつかせた。中の液体が揺れる。
「さて、それじゃあお待ちかねの、ゲームのルール説明をしよう。と言っても簡単なルールだよ。この解毒薬を手に入れることが出来ればキミの勝ち。そうすれば、キミの大事な友達の居場所も教えてあげる。もちろん解毒薬も毒を作った本人に貰ったものだから安心していいよ。どんな手段を使っても良い。オレを殺すでも、惨めに頭を下げて懇願しても良い。タイムリミットは……キミの命が尽きるまで、かな。何か質問はある?」
「…………何が、目的だ……」
苦しそうに片手で胸を押さえながら天使は言った。悪魔が片眉を持ち上げる。
「こんな…手の込んだことをして、……貴様へのメリットが見えない……。一体、何を企んで……」
「目的? そんなものは無いよ」
「!? ……な…………」
掠れた声で、頭が割れそうな程の痛みを堪えながらも なお睨み付けてくる相手に、悪魔はあっけらかんと言い切った。思わず天使は絶句する。
「こんなのは、所詮暇つぶしなんだよね。普段からお堅くてイケ好かないキミと、ちょっと”遊びたかった”だけなんだ。イイ光景だよ。オレの前で情けなく膝をついて、オレを見上げるしか出来ないキミを眺められるなんて」
「そん、な……そんなことの、ために……彼らを、巻き込んだのか……!?」
「フフッ、イイ顔だね。キミの事は大ッ嫌いだけど、キミのその顔は大好きだよ」
質問には答えず、くすくすと笑いながら悪魔は指で天使の頬をなぞり、肌を流れていく汗をすくい、払う。
「……ふざ、けるな……気色が悪い……」
冗談だとは分かっていても、身体の毛が総毛立つ感覚に襲われる。どんな理由であれ、悪魔に好かれるなど、吐き気がする。苦々しい顔で自分を睨む天使を鼻で笑い、悪魔は立ち上がる。
「質問はそれだけかな。それじゃあゲーム開始、だよ。オレはここから動かないから、せいぜい頑張ってね」
そう言ってテーブルの端に腰掛け、足を組む。それから、相手に注意する必要も無いと言いたげに、爪の手入れを始めた。
「く……」
天使は立ち上がろうと腕に力を込める。しかし、どれだけ力を入れているつもりになっても、身体は少しも持ち上がらない。苦しい。激しく脈打っていた心臓は、今や素手で鷲掴まれているかのように締め付けられ、喉からは絶えずか細い吐息が漏れる。立ち上がることを諦め、辛うじて動かせる腕を伸ばす。震える指が相手の靴の爪先にかかる。が、ホコリでも落とすかのように軽く払われる。
「ほらほら、もっと頑張りなよ。さもないと、あっという間に“ゲームオーバー”になっちゃうよ?」
「…………ぅ……」
その爪先で顎を持ち上げられる。動けない代わりにせめてと精一杯睨み付けてやる。無理な体勢で顔を上げさせられている所為で一層息が詰まる。悪魔の笑いと呆れが混ざったような声が降る。
「さっさと従順になったらどう? もうツラいんじゃない? 懇願してごらんよ。『どうかこの惨めな天使にそのクスリをお渡しください』、ってさ」
「………………」
「嫌なんだ? ほんっとプライドだけはバカ高いんだね。……まぁでも…確かにちょっと難易度上げ過ぎちゃったかな」
気怠げに言いながら、悪魔は床に降り、天使と目線を合わせる。そしてビンの蓋を開け、見せつけるようにそれを傾けた。彼が何をしようとしているのか理解出来ないまま、天使は零れた液体を二本指の先で受け止める悪魔を見上げる。
「フフ、そんな不安そうな顔をしなくてもいいよ。ゲームを強制終了させたいわけじゃないからね。だけど……」
徐に相手はビンの傾きを戻す。口元が弓なりに歪んだように見えた。瞬間、
「――――っ!?」
不意に天使の呼吸が止まった。口に、濡れた指を挿し入れられたのだと悟ったのは一拍遅れての事だった。
「いつまでもゲームが停滞するのもツマラナイんだよね。……ほら、舐めなよ。少しだけ楽にしてあげる」
「んん……っ」
拒絶の言葉は口内の異物に阻まれ明確な音にならない。反射的にそれに歯を立てようとする。が、
「おっと、噛まないでよ。大事な商売道具の1つなんだからさ」
「……ッう゛……」
ぐ、と奥まで挿し込まれ思わず呻き声が上がる。その様子が面白くて堪らないというように悪魔はまた笑い声を上げた。抵抗出来ないのを良いことに、指先で舌をつつき、口内を弄ぶ。
「もう、ホントに強情だなぁ。敵の情けも少しくらいは受け取るものだよ? それにさぁ……分かってるのかな、時間は無いんだよ? キミが死んだらキミの友達の居場所も分からなくなるけど、それでいいの?」
「…………っ!」
天使の目が見開かれる。そして彼はまた苦しげに目を歪める。ほら、ともう一度つついてやる。やがて、熱を帯びた舌がおずおずと指先に触れるのを感じると、悪魔はにぃ、と微笑んだ。
「そうそう、どんなに嫌がってもキミに拒否権は無いんだから。邪魔なプライドなんて、さっさと捨てちゃえばイイんだよ」
子供に言い聞かせるように、長い髪を撫でる。ビンを持っている方の手の指先で頬にかかる髪を耳にかけてやると、薬が効いてきたのか、天使の表情がほんの少しだけ和らいだのが見えた。
「さて……と」
ゆっくりと指を抜き出し、その濡れた指で相手の唇をなぞりながら、悪魔はゆるりと碧色の目を細める。
「おねだり下手な天使サン。ちょっとだけスナオになってくれたキミに最初で最後の、最大のチャンスをあげるよ。YesかNoで答えるだけでいい。この解毒薬……欲しいよね?」
指の背で顎を持ち上げ、視線を捕らえる。もちろん相手にある選択肢は1つしか無い。しかし悪魔は敢えて問う。天使が自分の意思で、選択する事がこのゲームにおいては重要だから。
「………………ああ……」
絞り出すような声のYesを示す返事に、悪魔は牙を覗かせて笑う。それからゆったりとした動作でビンの蓋を外す。そして、
「オーケー、それじゃあ……早く”取りにおいで”」
それを自身の口に流し込んだ。
「――――!?」
思わず硬直し、目を見開いてこちらを凝視する天使に、誘うように首を傾げて肩をすくめて見せる。“取りに来い”の意味を悟った天使の、少し良くなってきていた顔色が再び色を失っていく。悪魔は動かない相手の片手を取り、自身の頬へと触れさせる。触れた指先は冷たい。近づいた顔を見つめれば、冷や汗とも脂汗ともつかぬ雫が顎を伝っていた。まばたきを忘れた紫色の瞳が微かに揺れている。
声にならなくとも相手が何を考えているかが手に取るように分かるようだ。それでも逃げないのは自分に拒否権など無いのを思い知っているから。仲間を見捨てるなどという選択肢は彼の中には無いのだろう。どこまでも真っ直ぐで純粋な天使。だからこそ”遊んで”やりたくなるのだ。
やがて…天使のもう片方の手が頬に当てられた。悪魔の顔を固定するように、今にも泣き出しそうにも見える、悔しげで、そして苦しげな表情で、彼はこちらを睨んでいた。負けじと見つめ返し、笑みを浮かべてやる。それが、相手の神経を逆撫でするのだと良く分かっているからだ。案の定、天使は眉間の皺を一層深く刻み、苦しそうに息を吐く。熱によって仄かに赤らんだ顔と、肌を伝う汗が官能的だ。などと言ってみれば更にその顔は歪むのだろうが、生憎と今はそう行かず惜しい気持ちになる。
「………………」
紫の瞳がきつく閉じられた。そしてゆっくりと唇が、触れる。
「……っ」
こんなこと、自分からしたことは無いであろう天使の舌が、こちらの唇を割開こうと触れた。わざと開かずにいてみれば、焦れたように ぐ、と顔をまた少し近づける。あらゆる意味で、早く楽にして欲しいとでも言いたげな、僅かに開かれた瞳はうっすらと濡れていた。
天使にとって、好意を持っていない相手に、しかも悪魔に口付けることなど、拷問と言っても過言ではないだろう。自分から見ればお高く止まった、イケ好かない天使にそれを強要するなど、なんて……気分が高揚することか。間違っても恋情と呼べるそれではないが、この天使は愛おしい。自分が“悪魔”であることを思い出させてくれる。天使の純潔な魂を弄び、悪魔である自分が干渉する。少しずつ、少しずつ悪魔の“毒”をその身体の内に蓄積させる。相手が気付かない内に解毒薬など存在しない“毒”を。気付いた頃には戻れなくなるように。こんなものは、“お遊び”だ。意味も無い、脈絡も無い、ただの悪魔の自己満足。
「………ふ………っ……」
本人は無意識であろう、甘さを帯びた声に意識が引き戻される。自分がそうしているとはいえ、焦れったい。必死に縋るような様子を眺めているのも愉しいが、このままでは日が暮れてしまいそうだ。相手も息苦しくなってきたのか、一度離れようとした。それを遮るように後頭部へ手を回し、頭を押さえつける。
「―――――ッ!!」
目を見開いた天使がくぐもった悲鳴を上げる中、唇を開き、口内の液体を流し込む。
「…………ん゛……っ」
思わず跳ねる華奢な身体を拘束するように、腰を抱く。震える指が肩を押し離そうとしてくるが、まだ力は戻らないようで意味を為さない。紫の瞳が耐えるようにきつく瞑られる。
「――――――」
天使の喉が嚥下する音を立てた。それを聞いて悪魔は漸く唇を離す。糸が切れたように崩れ落ちそうになる天使の身体を支え直せば、顎を濡らした彼は軽く咳き込んだ後、顔を少し上向けた。
「……はな…せ…………」
「ええ? オレが支えてなかったら地面に激突するところだったよ?」
「その方が……マシ、だ……」
「……あぁそう。じゃあ、お望み通りにしてあげる」
「――――――ッ!!」
言うが早いか、華奢な身体を床へ押し倒す。翼が軋む音を立て、天使が短く呻き声を上げた。顔を動かせないよう、広がった髪を押さえるように顔の真横に手をつき、悪魔は天使を見下ろす。
「なんにせよ、ゲームセット、だね。良く出来ました。褒めてあげる。正直、天使-キミ-に悪魔-オレ-へ“キス”する勇気があるなんて思わなかったよ」
「……っ……、…………約束を、守ってもらおう……」
わざと一つ一つ単語を強調するように言ってやれば、天使は忌々しげに目線だけ逸らし、半ば吐き捨てるように言った。それを見て悪魔は目を細める。
「あぁそうだね。ゲームはキミの勝ちだもんね。いいよ、教えてあげる」
軽く持ち上げた口端から鈍く光る牙が覗く。囁くように、けれどはっきりと、悪魔は言った。
「キミの大事な友達だけどね…… 残念ながら、オレの手の届く範囲にはもう居ないんだ」
「……! どういう、意味だ」
天使の表情が強張る。地面に縫い止められていなければ、今にも噛み付いてきそうな目に笑みを返しながら悪魔は続ける。
「フフッ… 実はね、彼女たちは今、見世物小屋にいるんだよ」
「な……っ」
言葉を失った天使の顔が瞬く間に青ざめていく。最悪の事態を考えているであろう姿に、悪魔は、遂に噴きだした。目を見開く相手に覆い被さったまま、身体を揺らしてひとしきり笑い、ゆらりと再び視線を合わせる。
「くっ……ふふ…… 何考えてるか分からないけどさぁ、安心しなよ。彼女たちは、普通に観劇に行ってるだけだよ? とあるサーカスのチケットが3枚手に入ったんだけどさ、デートで行くには半端だし、うちのメンバーで行くには足りないからね、だから良かったら~ってプレゼントしたんだよ」
「――――…………」
「……あれ?」
「……………………」
「大丈夫? 魂抜けちゃった?」
片手を目の前で振ってみせる。
「オレが女の子をアブナイ目に遭わせるわけないじゃん? おーい?」
放心していた天使はハッとしたように数回瞬きをする。そして瞬時に鋭い目で悪魔を睨み付けた。同時に漸く動かせるようになった手の平をかざし、攻撃のための魔力を溜める。
「貴様……は…………ッ」
まんまとハメられ、本当にただ弄ばれただけという事実に怒りが爆発した。悔しさと屈辱でまともな罵倒すらも浮かばない。仲間が無事だったことには安堵するほか無いが、爆発した感情はもう収まりそうもなかった。
もはや、下手に出る必要もこれ以上コイツと話をする必要も無い。一刻も早くコイツから離れなければ。
「そこから退け――――!?」
感情のままに魔力を放とうとする。しかし、それは叶わなかった。避けようとするどころか、悪魔が手首を掴んだのだ。思わず集中が途切れてしまう。その隙に指先を舐められ、瞬時にぞわりとした感覚が身体を駆け巡った。
「おぉ怖い怖い…… キミって、天使のくせに血の気が多いよね。もっと大人しくしてた方が良いよ。さっきまでみたいに、さ」
じわじわと、指先が痺れるような感覚を覚える。男のものにしては若干細い指に自分の指を絡めながら、悪魔は甘い笑顔を浮かべ、誘うように囁く。
「せっかくだから、もう少しだけ“遊ぼう”よ。まだ、遊び足りないんだよね」
「…………っ」
濡れた唇が指を咥え込む。悪魔の舌が絡み、ぬめつくような感覚に肌が粟立つ。指の間を舌が這えば、知らず短い悲鳴が漏れた。ぞくぞくと、言いしれない感覚を覚える。静かな部屋に微かに響く水音を耳に受けながら、天使は再び自分の身体に僅かな痺れが回り始めていることに気が付いた。
「…やめ……、貴様、なに、を……」
「あれ、キミもしかして知らない? “キミたち”にとって本当の“毒”がなんなのか」
指を口元から離しながら、悪魔は嗤う。口端から覗く牙が鈍く光る。
「……そうだ、それじゃあ新しいゲームを始めよう。キミがその“毒”が何かを当てられるかを試すゲームだ。当てられればキミの勝ち。ここから逃がしてあげる。当てられなければ……」
キミはもう帰れないかもね。
仲間の元へはおろか、キミの崇拝する神の元へさえも。
もっとも、答えを当てる術なんて無いけれど。悪魔の天使への干渉、その全てが天使にとっての“毒”なのだから。その身体に触れ、穢し、その心を揺さぶる事こそが、清らかな魂を侵すのだから。彼は気付いていないだろう。既に自分の身体がだいぶ侵されていることに。身体が思うように動かせなくなってきているのはその所為だということに。完全に魂を穢されて、“堕ちる”時になって漸く気付いてももう遅い。何もかもが、キミの負けなんだ。
抵抗も出来ない天使の唇に口付ける。そっと、優しく、まるで愛おしさを示すように。見開かれた紫色の瞳が目に入る。顔を離し、するりとシャツ越しにその胸をなぞる。拒絶の言葉が聞こえるが、その声にもはや力は無い。
「さあ……“アビス”。“毒”の正体を言ってごらん」
“オレの名前”を呼んでごらん。
キミを脅かすその名前を。
天使としての命が尽きる、その前に。
† † †
自分が有利な状況になってからゲームを始める悪魔マジ悪魔(爆