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ピアッシング

 

 

 

†        †        †

 

「……ッ、なんの、つもりだ」

 

 何が起こったのかも理解出来ず、仰向けになったまま絞り出すように言葉を吐き出す。床に押さえつけるように、自分に馬乗りに跨がっている少女は小さく笑って口を開いた。

 

「……何をすると思う?」

 

 その手には注射器に取り付けられているそれよりも、幾分か太さを増した、悍ましく煌めいた鋭利な針。

 

「お利口サンな天使のアンタは見た事ないかもね。コレはピアスホールを開けるためのニードルって言ってサ、これからコレでアンタの耳にも穴開けてやろうってワケ」

「な……」

 

 思わず絶句する。何を当然のことのように言っているのだろう彼女は。何をそんな、馬鹿げた事を。天使が、そして仮にも風紀委員の立場にある自分がそんな事許可出来るわけがない。しかし、こちらが唖然としている間にも、彼女はボクの耳朶に触れ、見当をつけているようだった。

 

「冗談じゃな――――ッ!?」

「おっと動くんじゃないよっ」

 

 急いで体を起こそうとするが、それと同時に髪を掴まれる。そして抵抗する間も無く、そのまま再び頭を床に押さえつけられた。衝撃を感じるよりも早く、耳元に感じたヒヤリとした温度に息を呑む。

 

「ヘタに暴れたら承知しないよ」

 

 掌で額を強く押さえつけられ 首を捻ることも叶わない。間近に迫った赤銅色の瞳に縫い止められたように、視線すら動かすことも出来ない。心臓が早鐘を打ち、呼吸が止まる。

 そして…針の先端が耳朶に強く押しつけられた。鼓膜に響く、ブヅリという小さな音。瞬間、その場所が灼熱を帯びる。

 

「ぁ゛……ッ」

 

 思わず喉から掠れた喘ぎが漏れた。針が少しずつ皮膚に沈む度 反射的に指が痙攣したように跳ねる。瞬きすら出来ない瞳には弧を描いている彼女の口元が映った。 

 

 やがて、何かが皮膚を通り抜けたのを感じた。荒れた呼吸を抑えるように、唇を塞がれる。それから、少しだけ身体の圧迫感が薄れ、彼女が上体を起こしたのが分かった。

 

「これでアンタはアタシの物よ」

 

 無性に意識が朦朧とする中、じわじわと広がる熱の中、左耳に今までは無かった僅かな重さを感じた。

 

「アタシとお揃いのピアスを着けてあげたの。無理に取ろうとしないことね。どうなっても知らないから」

 

もう一度顔を近づけてきたかと思うと、彼女は耳元で囁く。

 

「愛してるわ」

 

 熱を帯びたままの耳元が軽く濡らされる。一拍遅れて舐められたのだと悟ると、その箇所が微かに痺れ出す。

 

「悪魔……が……」

 

 自分でも驚く程、今にも消え入りそうな声を上げる。熱に浮かされたように、思考がままならない。

 

「悪魔が……天使-ボク-を愛しているだと……?」

「そう、愛してる。ケド、愛してもらおうなんて思ってないから。アタシは、アンタをアタシの物にするの。アンタの意思には関係無くね。だって、その方が悪魔的でしょ?」

 

 愛おしげにボクの頬に手を添え、彼女はその指先でピアスを撫でる。

 

「これはその為の枷よ。アンタがアタシの所有物だっていう証拠なんだから」

 

 言い聞かせるように紡がれる言葉に、拒絶の言葉を返すことも出来なかった。

 

 甘く誘うように、夢見ごちたように、彼女は囁く。

 

「だから…………

 早く堕ちてね、アビス」

 

 

†        †        †

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