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勧誘

※若干エドフロ前提

†        †        †

 

「―――――…………」

 

整った石畳の上に、土に汚れた白い羽根が散らばっている。宙には黒い羽根がゆらゆらと舞い、覆い被さるように白い羽根に重なっていった。

 

「……もう、諦めたら如何ですか」

 

 頭上からあまり抑揚の無い冷たい声が降ってくる。身体に力が入らない。地に膝をつき、立ち上がれないまま顔を上げた。

 

「キミが出しゃばる場面ではないはずですよ、光の学園の風紀委員さん」

 

 紅蓮色の髪に、学園指定のものであろう帽子を被り直しながら男は言った。闇の学園の生徒会長――エドガー、彼は懐から懐中時計を取り出し、時間を確かめると僅かに眉を顰めた。

 

「ボクが彼女にアプローチをかけるのは、単に彼女に興味があるからです。別に取って食おうと言うわけじゃない。確かにつれないこともありますが……彼女も、いずれ分かってくれるでしょう」

 

エドガーは背を向ける。そのまま歩き出そうとするが、それを引き留める。首だけで振り向き、制服の裾を掴む手を見るその眉間に皺が深く刻まれる。

 

「……駄目だ。貴様を、彼女に近づけさせるわけにはいかない」

「……しつこいですね、キミも」

「光と闇は近づきすぎてはいけないんだ」

「それは何故です」

「光と闇は……決して相容れることが無いからだ」

 

 即答すると、相手は押し黙る。しかし、再び口を開いた彼は冷たい声でこう言った。

 

「……それなら、キミの方がよっぽど彼女から離れるべきなんじゃないですか」

「…………何、だと?」

「そうでしょう、“アビス”。 “深淵”の名を与えられた闇属性の天使さん。底無しの闇で、綻ぶ華のような光を少しずつ侵していく可能性が高いのはキミの方なんじゃないですか」

「――っ、違う」

 

 半ば反射的に叫ぶ。違う、ボクは。

 蔑むようにこちらを見下ろす暗い桃色の瞳に知らず恐怖を覚える。何を言ってもこの上から呑み込まれてしまいそうな感覚。呆れたように短く鼻を鳴らし、相手は続ける。

 

「キミ自身がいくら否定しても、身に流れる要素は変えられませんよ。望もうと望まざろうと、キミの闇は、いつか大切なものを喰らってしまうかもしれない」

「………………」

「……あぁ、それなら、そうだ、キミもこちらの学園に来れば良い」

「……は……」

 

 不意に思いついたように投げかけられた言葉に思わず言葉を失う。

 

「寧ろ、キミには“こちら”の方が合っているんじゃないですか。その“闇”のせいで日頃散々苦労しているでしょう。『光の学園にどうして闇属性の天使が』とか『闇属性なんて、“天使に相応しくない”』とか何とか言われて……」

「…………っ」

「……やはり図星、みたいですね。キミにとって決して居心地の良い場所ではないのに、何故そちらに留まろうとするんですか?」

「……………」

 

 静かに息を吐いて、エドガーは膝を折り、跪いたままのボクと目線を合わせた。その目に浮かんでいるのは、憐憫の色。

 

「ボクは、決してキミが嫌いで喧嘩をしたいわけじゃないんですよ。寧ろ、ボクはキミの事は好ましいと思っています。キミの厳格で生真面目な様は評価に値しますからね。キミが“こちら”に来るというなら、ボクはキミも護ってあげましょう。キミの本質を疎かにして、理不尽にキミを貶す者達から。闇の学園の生徒会長として」

「……………」

「それに、キミがこちらにくれば彼女も気が変わるかもしれませんし。キミとしても、彼女の傍を離れたくないなら、悪い話でもないでしょう? 」

 しんと響くような声に、少しずつ、その通りかもしれないという感情が湧き上がってくる。まるで催眠術にでもかけられているかのようだ。この男の言葉は真実なのだと、錯覚しそうになる。顎を持ち上げられ、視線から逃れることが出来ない。本意の読めない瞳が鈍く光った。

「さあ、ボクの下に来なさい、アビス。そうすれば何もかも、上手く行きますから」

 

 

 

†        †        †

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