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深淵に潜むもの

※オリジナル設定強め

 

 

†        †        †

 

 闇に属する者として生まれ "深淵"の名を与えられ、「天使らしくない」と何度言われたことだろう。理不尽な軽蔑や嘲笑も当たり前だった。

 だからこそ、自分は人一倍"天使らしく"あろうとした。純潔にして厳格。何よりも規律を重んじ、それを乱すものは決して許さない。それこそが自分の考える"天使"の姿だった。

 

しかし、それが否定された今、自分は……

ボクは…………何なのだろう。

分からない。

"闇属性の天使"なんて、本当に"天使"と言えるのだろうか。

 

 

――――なら、堕ちてしまえば良い

 

 

「…………!」

 

どこかで声が聞こえた気がした。

ノイズがかかった、耳障りな声。

 

――――"自分"に相応しい姿になれば良い

 

ざわりと何か暗いものが肌を撫でた。

灰で汚れた手のような、不快な感覚。

 

ああ…… これは闇だ。

この身に宿す属性がゆえに知らずうちに体に纏わりついてくる闇。

そうに違いない。

耳を貸しては、ならない。

 

――――"自分"が何か分からないんだろう?

 

「…………っ」

 

しかし闇はそれを許さない。

抱き締めるように、囁くように、逃げられないように。

こちらの意識を絡めとる。

 

――――自分がいつから"天使"だと思っていたんだ?

 

「なん……」

 

思わず声の方に顔を向けてしまう。

するとそこには、闇に紛れて人影があった。

自分と同じくらいの背丈。

意思を持ったように蠢く灰に全身を覆われている所為で顔は分からない。

 

――――自分は本当は、"悪魔"なんじゃないか?

 

「…………ち、違う…」

 

それこそ"悪魔"の戯れ言だ。

 

耳を塞ぐ。

聞いては、ならない。

 

――――"ボク"は、"悪魔"なんじゃないか?

 

それでも声は明瞭に響く。

ノイズの取れたその声はまるで……

 

――――目を背けるんじゃない

 

顔を覆う。

見たくない。

灰が削げ落ちていくその姿を。

 

禍々しく捻れたツノと、広げられた艶めく黒い翼。

若干の赤みを含んだ紫色の瞳。

 

顔を覆う手を掴んで止めた相手は、口端を持ち上げた。

よく見知ったその顔は……

 

『ほら、この姿の方が相応しいだろう』

 

「…やめろ……」

 

『こんな名前には。 そうだろう?』

 

「やめろ!!」

 

『――――"アビス"』

 

"ボク"が、嗤った。

 

 

†        †        †

 

きっと心象風景的などこか。

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