こんなに僕を染め上げておいて
これ↓
ルクアビで「こんなに僕を染め上げておいて」とかどうでしょう。
https://shindanmaker.com/531520
† † †
「……アビス、キミは好きな人は居ないの?」
ティーカップから口を離したかと思うと、自分の向かい側に座る金髪の天使はそう言った。
「突然何だ。……風紀委員たるもの――――」
「もし、キミが風紀委員ではなくて、ましてや天使でもなかったなら、キミは、誰かを好きになったのかな」
ボクの言葉を遮ってまでして、普段は滅多に入れないはずの角砂糖を1つ落とした紅茶の中で、スプーンを回しながら彼は続ける。
「……何が言いたいんだルクス。熱でもあるのか」
「至って健康だよ……ううん、そうだね。もしかしたら熱はあるかもしれないね。でも、特に理由は無いよ。ただ、ふと気になっただけなんだ」
困ったように笑みを浮かべる相手に、言葉が詰まる。
「キミに好きな人が出来たら、そうなっても、キミは僕とこうしてお茶をしてくれるのかな」
「…………」
当たり前だろう、"友人"なんだから。なんていう言葉は発する事は出来なかった。
彼の求めている返事は、恐らくそんな言葉じゃない。
カップに注がれた紅茶に口を付ける。やわらかでクセのない渋みが喉を通っていく。鼻に触れる穏やかな香りは、彼が隣に立っているかのように錯覚させるようだ。実際には目の前に座っている彼は、ボクの返事を待っている。
「……キミは、ボクに何と答えて欲しいんだ?」
「さて……ね」
「ならば、そんな愚問に答える義理は無いな」
「えぇ……? 随分と冷たい返事をするんだね、アビス」
熱い紅茶をひと思いに飲み干す。穏やかな香りが宙に残る。
「冷たいのはキミの方だ、ルクス」
立ち上がり、残ったそれを自らも纏うようにして、テーブルを周り、どこか困惑した様子の相手の隣へと向かう。軽く身を屈め、薄い硝子越しの、その先の閉じられた瞳を射貫くようにして。
「ボクは―――――」
ふわりと漂う紅茶の香りに酔いそうな程。
優しく染みるような味に溺れそうな程。
ボクは、既にキミに染められているというのに。
† † †