それは一種の茶番
少しルクス氏が若干病んでる(というか外道)
† † †
放課後。授業の終わった空き教室。妙な予感を感じて覗いてみれば、そこには確かに異常な景色があった。
普段の面影はどこへ行ったのか。きっちりと締められているはずの襟元は大きく開かれ、髪や翼は乱れ、欲に汚れた白濁にまみれたその姿は。壁に背を預けるようにして、ぐったりと項垂れている彼は。
「アビス……!」
柄にもなく大声を上げて駆け寄った。意識を失っているかのようにも見えた彼は、意外にもこちらの声を捉えて、瞼を震わせた。
「ルク、ス……」
「一体、何があったんだい!?」
そんな事、この惨状を見れば察しはついた。けれど、自分が聞きたいのはどうして、彼がこんな目に遭ったのかだ。問いながら、せめて肌に付着した汚れを取り除いてあげようと、頬へと手を伸ばす。
「っ、触るな……!」
瞬間、不意に瞳の光を取り戻した相手が叫んだ。反射的に手を止めてしまう。
「ボクに、触らないでくれ…… キミまで穢れてしまう」
「だけど……」
「……校内の見回りをしていたらこの教室でたむろしている連中が居たんだ。その手元に如何わしい雑誌が見えたから注意をしようとした。……その時、背後から殴られたみたいでな……」
無表情で淡々と質問に答えながら、アビスはのろのろとした動作で衣服の乱れを正そうとする。
「気が付いた時には身動きを封じられていて…………このザマだ」
シャツの釦を留める指を眺めていると、手首にうっすらと何かに縛られたような跡が残っているのに気付いた。唇にも僅かに残る白濁を見るに、声を上げられないよう"猿轡でも噛まされた"のだろうか。
「……随分と手酷くやられたようだね……」
――――思っていたよりも。
「全てボクの力不足が招いた結果だ。あのような生徒達が居るとは思わなかった……。…………っ、触るなと言っているだろう…!」
「髪までこんなに汚されて……せっかくの綺麗な髪なのにね……」
髪を梳いてやる際に指先に付着したものを見て僅かに眉を顰める。
――――予想以上に遊びすぎたみたいだ、彼らは。
「アビス、その生徒達の所属は分かる?」
「……いや」
「そっか、分かった。それなら、後の事は僕に任せておいて」
「何をする気だ?」
「……こんな事をする生徒達を放ってはおけないでしょ?」
「ああ……そうだな……」
「そんな不安そうな顔しないで。僕に任せておいてくれれば大丈夫だから」
そう笑いかけると、アビスはふるふると首を振った。
「違う。キミを信頼していないわけじゃないんだ、ルクス。自分の不甲斐なさを恥じているだけだ……。…………すまない、キミの手を煩わせてしまって」
「良いんだよ、僕の責任でもあるし。……それよりも、ねえ、キミの穢れを"浄化"させてくれないかな」
「は、…… それはどういう、意――――っ!?」
返答の代わりに唇を塞ぐ。舌を挿し込めば、僅かな苦味を感じた。瞬間、顔を蒼白に染めた相手に体を押し離された。
「ど、どういうつもりだ……!? 触れるのはやめろと、言っただろう…! キミまで穢したくないんだ……!」
震えた叫び声に呼応するように翼が大きく広がる。ボロボロにされた様が痛々しい。床に散乱しているこの羽根は、彼が上げられなかった叫びの代わりだったのだろうか。
「ボクの事は構わないから…っ、キミはあの不良生徒達を取り締まってくれれば……!」
「そうはいかないよ、僕は学園全体の風紀よりもキミの方が大事だから」
「!? ――――ッ」
音を立てて、翼ごと相手の体を壁へと押し付ける。そして髪へ、頬へ、順に口付けていく。穢れを、塗り替えていくように。
「やめ、嫌だ、ルク――――っ」
正したばかりのシャツの釦に指を掛けると、上がった悲鳴を抑えるようにもう一度口付け。手の下で、押さえつけた翼が抵抗するように暴れたけれど、羽根と羽根の間に指を差し込めばびくりと体を震わせた後大人しくなった。 頬にかかる髪を耳にかけてやりながら、宥めるように、努めて優しく囁く。
「怖がらないで」
――――あの子達がしたようには扱わないから
† † †
不良を唆したのは実はルクス氏というお話