懺悔の言葉は届かない
※注:乳首責め
† † †
「キミの大好きな神サマに、見せつけてあげよう」
言うと同時に、悪魔は天使のワイシャツへと手をかける。そして乱雑に、一思いにそれを左右へと開いた。釦が外れ、或いは千切れ飛び、天使の切れ長の瞳が驚愕に見開かれる。突然素肌を晒された羞恥に白い肌が瞬時に真っ赤に染まった。
「……な、……っ…………」
未だ両手は十字架へと繋がれているため 体を庇いたくても叶わず、品定めするように自身へと目線を這わせる相手を睨み付けることしか出来ない。
「フフ、結構綺麗な肌をしてるんだね」
「……っ」
悪魔の指先が胸の中心に触れる。ひんやりとした感覚に思わず体がぴくりと震え、息を呑む。戯れに薄い胸筋をなぞってみたかと思うと、指はそのまま胸の先端についた小さな突起に触れる。そして、何をされるか分からない恐怖に体を固くしている天使に軽く微笑むと、それを2本の指で摘まみ、軽く捻った。
「ひ……っ」
反射的に天使の口から上擦った悲鳴が漏れる。引きつった表情で眉をしかめ、紫色の瞳が悪魔の指先を凝視する。まだ悪魔の行動の意味が理解できていないようだ。
なので、今度はぐりぐりと押し回してみる。両手を使って、もう片方も同時に。堪らず天使が体を震わせて身を捩った。
「ん……っ、…… なん…………」
「どう? イイ気持ちじゃない?」
「ばか、な…………ぁ……っ」
気持ちよくなんか、あるはずがない。身体に走るのは痛みと確かな不快感だけだ。乳首を捻り上げられて思わず声が零れてしまうのも、なんだかおかしな気分になってくるのも、悪魔なんかに直に触れられているからだ。そうに決まっている。
「……まぁ、そっか。初めてだもんね」
妙にあっさりとそう言って、悪魔は指を離す。得体の知れない感覚から解放されて天使は安堵の息を吐いた。と思ったのも束の間、不意に唇を塞がれた。抵抗する暇も与えられず、悪魔の舌が口内へ捩じ込まれる。それはそのまま口腔内を我が物顔で侵し、逃げる天使の舌を絡めとる。
「……っ、ふ…… んン…………ッ」
苦しい。気持ち悪い。最悪だ。逃れたくても背後には祭壇があり、首を捻る程度では意味が無い。寧ろ、顔の角度が変わったことで責め苦は激しさを増した。
「ん……ぅ……、……っは……――――ぁあ?!」
漸く唇が離れ、酸素を取り込もうとした瞬間、再び胸に強い刺激が走り、嬌声に近い叫び声を上げてしまう。そんな自分の声に天使は驚き、困惑の表情を浮かべた。
なにかが、おかしい。先程受けた愛撫とは何かが。だがそれが何かはさっぱり検討もつかなかった。
眼前にある悪魔のエメラルドグリーンの瞳が艶然と歪む。
「これが気持ちイイことだって、教えてあげる」
もう一度口が塞がれる。同時に、身体にもひやりとした指が触れた。艶めかしい舌に口内をどろどろに犯され、酸欠も相まって思考が溶かされていく。そんな中で胸の先を弾かれると、雷に打たれたような感覚が走り、反射的に体が跳ねる。濃厚なキスによる快楽と身体に与えられる刺激が混ざり合い、感覚が麻痺していく。
「……ふ…っ……、――~~っ……」
局所的に与えられるこの刺激が痛みなのか、もう分からない。無意識に腰を浮かせるように背中を反らしてしまう自分の身体に思考が混乱する。
快感を覚えている……? 天使であるこの自分が…? 悪魔の中でも特にいけ好かないこの悪魔に体を弄ばれて……?
ああそんな……そんなこと嘘だ。あり得ない。あってはならない。
そう思うのに、今や身体は与えられる快感を貪欲に拾い始めていた。
「ぷは……っ は……、ぁ…っ……」
「フフッ イイ顔になってきたね」
「は……、ふざけ……ぇ…っ……」
指の腹で先端を強く押し潰され、反論は吐息へと溶けた。認めない。相手の瞳に映る、口を満足に閉じられないままの蕩けたような顔を晒している情けない姿が自分だなんて。こんなものが快楽なんて。知らない。知りたくなかった。天使がこんな姿を晒すなんて許されない……
「……神サマもさぞ驚いてるだろうね。大事な愛し子のこんな姿見ちゃうなんて」
「――――っ!」
どこか意地悪く嗤うような口調で呟かれた言葉に、冷水を浴びせられたような感覚に陥る。あまりの出来事に、此処がどこだったのかをすっかり失念していた。此処は、教会。自分は今 十字架の前で、正に神の御許で悪魔によって身体を暴かれていたのだった。
「あんなに勇ましく吠えてた子が、今は無様な姿を自分の前に晒してるんだ。さぞガッカリされているだろうね?」
「……ぁ…………」
もしかしてそれこそお怒りかも?なんて囁いてみれば、一瞬にして顔面を蒼白に染めた天使の唇が震え出す。ゆるゆると首を振れば、乱れた紫髪がはらはらと動きにあわせて揺れた。
「神様…………」
零れた言葉は無意識に発せられたもののようだ。大罪を犯した罪人が懺悔する時のような様子で、天使の瞳は虚空を見つめていた。目の前に顔があるというのに、その瞳には自分は映っていない。
余計なことを言っちゃったかな、と悪魔は反省するも、すぐにその考えを思い直す。―――堕とすのであれば、この状況の方がよほど好都合だ。
薄い胸元に顔を寄せ、その先端に軽く口付ける。それから今や赤く熟れた果実のようなそれを口内に含んだ。反射的にぴくりと天使の身体が小さく跳ねる。
「……っ、は……? ……な、ぁ……やめ……」
僅かな固さに舌を這わせば、意識を引き戻されたらしい天使が声を上げた。しかしその声にもはや覇気はなく、寧ろ切なげで甘く。舌の上で転がせば吐息混じりの嬌声が漏れた。
「ぁ、っ……ん……、おねが……ぁッ……」
懇願の言葉は空いた手でもう片方を弾くことで打ち消す。震えて目元に涙を滲ませる様子に普段の凛とした姿は影もない。きっと、あともう一押し。
「……めんな…さ……、かみさ……」
「…………」
刺激が与えられる度に、ひくひくと体を震わせながら吐くのは懺悔の言葉か。だがそうはさせない。赦しを求めるのは許さない。彼にはこのまま堕ちてきてもらうのだから。
少し身を乗り出すようにして、暇をしていた片手を伸ばす。その先にあるのは天使の象徴である純白の翼だ。ここが彼らの"弱点"でもあることを自分は知っている。
「……っ、――――ああああぁっ!!」
片手で先端を押し潰し、口では吸い上げ、残った手で翼を揉みしだく。3ヶ所同時に与えられた強烈な刺激に天使は堪らずに絶叫した。はくはくと口を開閉させたかと思うと ずるずると身体から力が抜けていく。顔の横にカーテンのように、癖の無い長髪が降りてきて、悪魔は「あ」と零して身体を起こす。……ぐったりと項垂れてしまったところから見るに、天使は気を失ったようだった。
「……うーん、どうしたものかな」
どうも最後の一押しは少し衝撃が強すぎたようだ。一気に畳みかけるのは悪手だったか。気絶されては逃げられたも同じ。しかし、ここまで来て退いてやる気もない。となれば。
「悪いね神サマ。この子はもうアンタの元には返さないから」
立ち上がり、祭壇に飾られた十字架を挑戦的に見据える。外では空が荒れ狂ったような嵐が続いている。まるで、神の怒りを代弁するかのように。
「フフッ、ホントに"いい天気"だね。テンション上がってくるよ」
大きく伸びをした後、腰に手を当て、身体を解すように回す。それからニィ、と牙を覗かせて笑う。
「さあ、これからが本番だよ。ショウタイムを始めようか」
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